コラム詳細
第1回交流会を開催致しました。
2026年05月18日
IBD患者さんの日常生活を彩る会 第1回交流会を開催しました。
2026年4月25日、一般社団法人 IBD 患者さんの日常生活を彩る会(以下「彩る会」)は、東京科学大学にて第1回交流会を開催しました。
今回の交流会のテーマは、「IBD 患者さんの“日常”がつらい瞬間はどこにあるのか」。IBD患者さんが日々の生活の中で感じている困りごとや不安、そして、それぞれが自分らしく暮らすために重ねてきた工夫について、患者さんとIBD 診療に携わる専門医が直接語り合い、互いに理解を深める時間となりました。
会場となった東京科学大学。多くの患者さん、ご家族、医療従事者が集まりました。
安心して過ごせる空間づくり
交流会の開始にあたり、まずは参加者の皆様がリラックスして過ごせるよう、会場での過ごし方をご案内しました。 ボランティアとして参加した東京科学大学大学院生の若井さんからは、体調に合わせた途中離席が自由であることや、お手洗い・飲み物の場所などの詳細な説明があり、IBD 患者さんにとって不可欠な「心理的・物理的な安全性」を確保することから会がスタートしました。
ボランティアの若井さんによる当日のご案内と温かみのある手作りの装飾
開会の挨拶 -根本治療がないからこそ、日々の不安に寄り添いたい-
開会挨拶に立った日比紀文代表理事は、長年にわたり IBD 研究と臨床の最前線で活躍してきた経験を振り返りながら、本会設立に込めた熱い想いを語りました。
「彩る会」設立の想いを語る日比代表理事
冒頭では、Apple 社製の補聴器に触れながら「音楽を聴いているわけではありません」と話し、会場の笑いを誘う一幕もありました。 緊張感のある開会直後の空気がやわらぎ、参加者の皆さんがリラックスして話しやすい雰囲気が生まれました。
補聴器にまつわるユーモアで会場を和ませる日比代表理事
「彩る会」の役割 -患者さんと医療・社会をつなぐハブに-
続いて、厚生労働省 研究班の班長をこの3月まで務めた久松理事から、「彩る会」の役割について説明しました。 久松理事は、IBDに携わる医療者が患者さんと交流する機会をつくり、患者さんの声に直接耳を傾けることが、「彩る会」の本質であると述べました。
また、日本では、難病研究班や学会などを中心に、治療指針、専門医制度、就労支援、妊娠・出産支援など、さまざまな情報や制度が整えられている一方で、そうした情報が必ずしも患者さんに十分届いていないという課題にも触れました。
そのうえで、「彩る会」は、患者さんの声を集め、国、学会、医療、社会へとつなげていくとともに、国や学会、医療提供者側の情報を患者さんに届ける“ハブ”としての役割を担っていきたいと説明しました。
「彩る会」の役割について説明する久松理事
交流会の流れの説明 -リラックスして、ご自分のペースで-
プログラムに先立ち、長堀理事より、本交流会の趣旨や当日の約束事、全体の流れについて説明しました。
当日の流れを説明する長堀理事
- 当日は、全体説明、開会挨拶、本会の目的紹介、第1部パネルディスカッション、休憩・フリートーク、第2部交流会、閉会という流れで進行しました。
- あわせて、参加者の皆さまには、ご自身の体調に合わせて、休憩を取ったり飲み物を飲んだり、必要に応じて自由に席を外していただいて差し支えないことをお伝えし、リラックスしてお過ごしいただきたいとご案内しました。
第1部パネルディスカッション -排便の不安と、食事に関する制限-
第1部では、患者さん代表と専門医によるパネルディスカッションを行いました。 テーマは、IBD 患者さんの日常生活に深く関わる二つの課題です。一つ目は、排便にまつわる困難。二つ目は、食事に関する制限です。
パネルディスカッションの様子
日常生活で特に困難を感じる項目(事前アンケート結果より)
パネルディスカッションに先立ち、「彩る会」が事前に実施したアンケート結果について、長堀理事より紹介しました。 アンケートでは、トイレの不安、便意切迫感、外出・通勤・通学の困難、周囲に病気を説明することの難しさ、精神的な負担など多くの患者さんが困難に感じていることが確認できました。 特にトイレに関する不安は、患者さんの生活の自由度に大きく関わる課題として、参加者の間で共有されました。
| 困難を感じる項目 | 回答者数 (有効回答者数:n=55) |
|---|---|
| トイレ不安(場所、数、清潔さ、順番待ちなど) | 29名 |
| 便意切迫感(急な強い便意への対応) | 25名 |
| 外出・通勤・通学 (移動中の不安) | 18名 |
| 周囲への病気の説明の難しさ・理解不足 | 17名 |
| 精神的な負担(抑うつ、不安、自己肯定感の低下など) | 14名 |
| 疲労感、倦怠感、関節痛などの消化管外症状 | 13名 |
| 食事制限・外食の困難さ | 12名 |
| 治療費・医療費に関する経済的負担 | 10名 |
| 予定が立てられないストレス | 7名 |
| その他 | 1名 |
「トイレに行けるか」が、外出の前提になる
パネルディスカッションでは、患者さん代表の方から、学生時代に自宅から学校までの駅ごとのトイレの場所を確認していたことや、友人と一緒に通学することが難しくなったことなど、具体的な体験が語られました。
また専門医からは、コンビニのトイレが以前ほど気軽に使えなくなっていること、駅のトイレが混雑しやすいこと、男性用トイレでは個室が少ないこと、女性用トイレでは一人ひとりの利用時間が長くなり、結果的に待ち時間が生じやすいことなど、患者さん個人の努力だけでは解決しにくい社会環境の課題も指摘されました。
会場からは、コンサート会場で「おなかの病気がある」と伝えて端の席にしてもらった経験や、車で外出する際に事前に問い合わせて駐車場を確保してもらった経験なども共有されました。 また、子どもを守る「こども110番」のように、緊急時にトイレを貸してもらえる仕組みがあるとよいのではないか、という意見も出されました。
専門医からも、たとえばワッペンのようなマークをつくり、必要なときに優先的にトイレを利用できる仕組みや、アプリを活用して空いているトイレを把握できるようにすることなど、今後につながるアイデアが提案されました。 また一人ひとりは孤独かもしれませんが、それぞれが工夫していることなど情報を共有することが大切であるといった意見も出ました。
トイレ問題解決のアイデアを語る日比代表理事
便意切迫感は、本人にとっては一刻を争う切実な問題です。 しかし、そのつらさは外からは見えにくく、周囲に伝わりにくいという難しさがあります。 事前に申し出れば配慮してもらえる場合もありますが、「自分から病気のことを説明する」こと自体が、大きな心理的負担になることも少なくありません。
「彩る会」としても、排便やトイレに関する困りごとは、患者さんの生活の自由を制限するだけでなく、精神的にも大きな負担をもたらす重要な課題であると改めて認識しました。 個人の工夫だけに委ねるのではなく、社会全体で考えていくべきテーマとして、今後も向き合っていきたいと考えています。
食事は「制限」だけではなく、生活の楽しみでもある
もう一つのテーマである食事についても、さまざまな意見や体験談が共有されました。
- 事前アンケートでは、「食べたいものを、食べたい時に食べられないストレス」
- 「外食で相手に気を遣い、無理をして食べた結果、翌日体調を崩してしまう」
- 「会社の飲み会がコース料理だと、食べられるものがほとんどない」といった声が寄せられました。
IBD患者さんにとって、食事は体調に直結する重要なテーマです。 一方で、食事は日々の楽しみであり、人とのつながりをつくる大切な機会でもあります。 そのため、食事に関する制限や不安は、QOL にも大きく関わります。
患者さん代表からは、「調子のよいときに、少しずつ食べたいものを試してみるのがよいのではないか」といった実感に基づいたアドバイスがありました。
情報共有の大切さを語る松岡理事
また専門医からは、「何が合わないかは一人ひとり異なるため、寛解期には必要以上に制限しすぎず、少しずつ試してみることも大切」
「クローン病では食事が再燃のきっかけになる場合もあるため、自分の体調を見ながら無理のない範囲で工夫していくことが必要」といった話がありました。
クローン病の食事制限について説明する猿田理事
活動期につらい経験をしたときに食べていたものが、その後も強い不安や苦手意識につながり、どうしても避けてしまうことがあります。
一方で、「彩る会」の専門医からは、「すべての患者さんに共通して良くない食品が、医学的に解明されているわけではない」
「寛解期には、必要以上に食事を制限するのではなく、体調を見ながら少しずつ食べたいものにチャレンジしてみてほしい」という考え方が示されました。
食事に関する話し合いを通じて、患者さんが日々感じている不安や慎重さと、医療者が伝えたい考え方との間に、認識のギャップがあることも見えてきました。 こうしたギャップを一つひとつ埋めていくことも、患者さんと専門医が直接対話する交流会の大切な役割であると感じました。
休憩・フリートーク
第1部終了後には、休憩とフリートークの時間を設けました。 会場では、参加者同士が言葉を交わしたり、登壇した患者さん代表や専門医に質問したりする姿が見られました。 IBDの悩みは、身近な人にも話しづらいことがあります。 同じ病気を経験する方、患者さんを支える方、医療者が同じ場に集うことで、「自分だけではない」と感じられる時間にもなったのではないかと思います。
第2部 グループディスカッション -日々の困りごとと工夫を共有-
第2部では、参加者がグループに分かれ、ポストイットを使ったグループディスカッションを行いました。 各グループでは、専門医がファシリテーターとなり、参加者の皆さんが安心して話せる雰囲気づくりを大切にしながら、できるだけ一人ひとりの声を拾うことを意識して進行しました。
はじめに、全体ファシリテーターである長堀理事より、「無理に話さなくてよいこと」 「人の話を否定しないこと」「この場で聞いた個人的な話は外に持ち出さないこと」など、安心して対話するための約束事を共有しました。
その後、自己紹介を兼ねて、「最近助かったこと」をテーマに、お一人ずつお話しいただきました。 病気に関する話題は、ともすると深刻な方向に進みがちです。 そこでまずは、家庭、職場、学校、外出先などで、誰かの一言や小さな行動に助けられた経験を共有することから始めました。
少人数のグループに分かれ、日常生活の困りごとや工夫について語り合いました
続いて、参加者の皆さんにポストイットを使って、「困っていること」 「工夫していること」 「あったらいい支援」 を書き出していただきました。
書き出された内容をもとに、各グループでは、似たような経験をした人はいないか、もう少し詳しく聞いてみたいことは何か、どのような支援があるとよいかなどについて話し合いました。
ポストイットに集まった、日々の暮らしの工夫
ポストイットには、日々の生活に根ざした多くの言葉が並びました。
ポストイットに集まった、日々の暮らしの工夫
- 「病気のことは伝えている。伝えることにしている」
- 「伝えることに慣れる」
- 「患者会HPで病院の情報収集をしている」
- 「不安な時はたくさん読書をした」
- 「薬を忘れないようにする」
- 「音姫のアプリを使っている」
- 「ウンログ IBD サポートがおすすめ」
- 「Gコミュニティのレシピサイトを見ている」
そこには、患者さん一人ひとりが、自分の生活を少しでも前向きに過ごすために積み重ねてきた工夫がありました。
また、第2部でも、食事に関する具体的な工夫が多く共有されました。
- 「食べ物はトライ&エラーで試してみる」
- 「外食では一緒に注文して、少しだけ試してみる」
- 「出かける前には水分量や温度に気をつける」
- 「カフェインを摂りすぎないように、温かい飲み物を選ぶ」
- 「メイバランスのゼリーを活用している」
- 「ノンフライヤーを使っている」
- 「生協の宅配を利用している」
- 「サラダチキンを活用している」など、日々の経験から生まれた実践的な知恵も集まりました。
交流会後のアンケートから -参加者の声を、これからの活動へ-
交流会後のアンケートでは、多くの温かいメッセージをいただきました。その一部をご紹介します。
- 付箋に書いて話す方法は、後で会話を思い出しやすく、沈黙も生まれにくいのでよかった
- どのようなことに悩み、どのような工夫ができるのかを一緒に考えられたことが嬉しかった
- 患者同士の交流に加え、専門医が同じ場にいることで、正しい知識を得ながら話し合える点がよかった
- 第2回も開催してほしい、次回も参加したい
こうした声から、患者さん同士が悩みを共有するだけでなく、専門医が同じ場にいることで、安心感と学びのある交流が生まれたことがうかがえました。 これは、「彩る会」ならではの特徴であり、今後も大切にしていきたい点です。
一方で、プログラム時間、質疑応答、会場案内、進行方法などについても、率直なご意見が寄せられました。
- 休憩時間を含めて2時間程度のプログラムにすると参加しやすい
- フリートークはプログラム終了後にあるとよい
- パネルディスカッション後に質疑応答の時間がほしかった
- 他のグループの参加者の話も聞きたかった
- 会場の場所がわかりにくかったので、案内を充実してほしい
「彩る会」では、これらのご意見を真摯に受け止め、次回以降の交流会の改善に活かしていきます。 当日は、体調不良などにより参加できなかった方もいらっしゃいました。 そのこと自体もまた、IBD患者さんの日常には、予定通りにいかないことがあるという現実を示していたように感じます。
また、次回のテーマとして、メンタル面の不調や倦怠感、最新の研究情報、日常生活の工夫、周囲への伝え方、妊娠・出産、薬の副作用などが挙げられました。
「彩る会」では、今回寄せられた声を今後の活動に活かしながら、IBD患者さんの日常生活が少しでも前向きで豊かなものになるよう、交流の場づくり、情報発信、社会への理解促進に取り組んでまいります。