患者さん向け
IBD患者さんに普通の日常生活を
炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease : IBD)は、腸に慢性的な炎症が起こる病気の総称で「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」の2種類があります。主な症状は腹痛、下痢、血便、体重減少などで、炎症のある活動期にはこれらの症状が日常生活を妨げます。しかし炎症を抑えられて症状のない寛解期には普通の生活が可能です。この病気は、寛解(落ち着いている状態)と再燃(炎症が活動性となり症状が悪化する状態)を繰り返すのが特徴ですが、寛解期を維持することが可能となってきました。原因は遺伝、環境など複数の因子が関係し、従来は体を守る機能である免疫機構が異常に反応してしまい腸に炎症が生じてしまうと考えられていますが、完全には解明されていません。治療は薬物療法や栄養療法や白血球除去療法などが中心で、病状に応じて生活習慣の見直しも必要です。IBDは外見からはわかりにくい病気で、体調は本人にしかわかりません。苦しんでいても周りの方には普通に見え、さまざまな不安や心配事を持って生活しているのが現状です。これらの不安や心配事を解消し、日常での困ったことを解決するため医療側から何か出来ないか、IBD患者さんが安心して普通の方と同じような快適な生活ができるよう一般社団法人「IBD患者さんの日常生活を彩る会」を立ち上げました。
私は、慶應義塾大学病院、北里研究所病院で炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)の患者さんの診療に50年以上携わってまいりました。日常のIBD患者さんとの付き合いを通じて、患者さんの感じている不安や心配事を解消し、日常での困ったことを解決するなど、IBD患者さんが普通の方と同じような快適な生活ができるよう何かできないかとの考えから、一般社団法人「IBD患者さんの日常生活を彩る会」を立ち上げました。本法人は、従来の会と異なり、医師を含めたIBD医療従事者、およびIBDの治療薬/治療器材を提供してくれている会社の人々と共同して運営する会です。IBD患者さんばかりでなく、患者さんを取り巻く関係者の人々を対象に、患者さんが不安なく通常の日常生活を送れるよう医療側から活動していくつもりです。大学卒業以来50年に渡りIBDに従事してきた経験と知識をもとに月に1回ぐらいの割で発信させてもらうつもりです。
適切な治療で多くの患者さんが普通の生活を送れるようになりました
IBDは「慢性に続く難病で、一生闘病し続けなくてはいけない」と誤解されています。原因不明で根本治療がありませんが、炎症を抑える治療法の発達によりほとんどの方が症状なく生活できるようになり生命予後は比較的良好ですが、患者さんは長期にわたって病気と付き合うこととなり、日常生活も普通に送れないと考えられていました。確かに21世紀以前は治療薬も少なく、難病と考えられてきました。しかし、21世紀に入り免疫反応の異常を抑える「抗TNFα抗体薬」が臨床応用され、その画期的な治療効果と長期使用の安全性が確認されました。その後次々と作用機序も異なる新薬が開発され、その有効性から多くの患者さんが普通の生活を送れるようになりました。
前述しましたように、IBDでは腸に慢性の炎症を生じますが、適切な治療を選択し、この炎症をうまく抑えれば、副作用も少なく無症状の状態が保てるようになりました。しかし、現在の治療法はあくまでも炎症を抑える対症療法であって根本的な治療法ではありません。根本治療がなく完治ということがないため、炎症の起きないよう、かつ炎症のない状態を続けるため、病院など医療機関との付き合いは続き長期の管理が求められます。患者さん個人個人に合ったきめ細やかで適切な医療が求められますが、それが行われれば普通の日常生活が可能となりました。そのためには、患者さんだけでなくその家族を含めた周りの方々にも病気について正しく理解してもらうことが必要です。単に病気のコントロールだけでなく、看護師さんや薬剤師さんなど医療従事者と患者さんとが、診療だけでなく心でも繋がれば、患者さんが普通でかつ心配のない生活が送れる病気と考えています。すなわち、看護師/薬剤師/栄養士など医療機関の人々や製薬会社の方々を含めて、患者さんの家族やその周囲の人々との協力が大切と考えています。そのような環境を作っていくよう今後も努力していこうと思っています。
まずやるべきこととして
- 公平で偏らないIBD最新情報の提供
- IBD患者さんが困っている社会環境やトイレなど公共施設の改善
- 全国の専門医療施設の案内と取次
- 患者さんの会との密接な連携により患者さんが聞きたいことの専門医からの発信
- IBD患者さんとその家族・関係者との交流推進
- 関連医療会社の患者向けホームページの紹介とリンクによる情報提供
- 国内外の関連医療施設ならびに学術団体との連絡及び協力
などを考えています。
自分たちの気付かないことも患者さんから提案いただき、その解消を通じて、患者さんの日常生活を彩るよう努力していきます。
日比 紀文
一般社団法人 IBD患者さんの日常生活を彩る会 理事長
慶應義塾大学名誉教授
令和7年8月12日